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通訳者訓練メソッドによる目標別英語力増強講座

染谷泰正

バベルプレス「翻訳の世界」(1993-94年連載)


第5講:ボキャブラリーをどう増やすか(2)
 「ボキャビルカード」を作ろう
 「ボキャビルテープ」を作ろう

(June 14, 1993: B-9306) 



4講では、いわゆる「ボキャビル」の基本的な考え方について述べました。ポイントを簡単に整理しますと、まず、ボキャビルの基本は毎日のリーディングにあるということ。次に、できるだけ特定のトピックの英文を一定期間集中して読むこと。それから、1回にチェックする単語の数を制限すること。この3つということになります。

このうち、最後の点については1日あたりせいぜい5語が限度だろうと述べたわけですが、仮に1日あたり5語を目安に「ボキャビル」をしていくとして、毎日の作業を具体的にどのようにやっていくか。今回は、この点についてとくに「ボキャビルカード」と「ボキャビルテープ」の作成というふたつの作業を提案し、その具体的方法について述べてみたいと思います。

「ボキャビルカード」を作ろう
新しい単語を覚え、かつそれを維持していくためには、一定の文脈の中で、その単語を繰り返し目に(あるいは耳に)する必要があります。前回も述べたとおり、必要な繰り返し回数は平均7回ほどとされていますが、回数はともかくとして、できるだけ多く接したほうが習得の可能性が高くなるということは明らかです。毎日のリーディングはそういう状況を作り出す最適の方法のひとつですが、その中で出会う未知語を確実に自分の記憶回路の中に取り込んでいくためには、単に辞書でその意味を調べて納得しているだけでは不十分です。最新の認知心理学によれば、新しい情報を記憶として定着させるためには、その刺激が側頭葉内部の海馬と呼ばれる部分に一時的に駐在している間に、なんらかの方法によって強く印象ずけたり、意識的に反復するなどしてその刺激を増幅させながら、一定期間持続させておく必要がある。これによって、その刺激が海馬周辺の近時記憶回路へと転送され、そのうちのいくつかが最終的に大脳皮質の連合野の中に整理されて長期記憶となるわけです。

となれば、新しい単語を覚えるためには、単に辞書でその意味を確認するだけでなく、一見迂遠なようでも、やはりそれを文字どおりひとつずつ脳裏に刻み込むようにして丁寧にノートに記入していくのがいい。これによって2分でも3分でもその単語のイメージが持続し、結果的に記憶への定着を促進することができるからです。そこで、私のクラスでは生徒さんたちに、ボキャビル専用のノートを作らせて、毎日のリーディングの中に出てくる未知語のうち、1日5語なら5語と決めた数の単語をその用例とともに書き込ませています。もちろん、ノートに書きさえすれば覚えられるというわけではありませんが、生徒さんたちを見ている限りではこの作業をきちんとやる人とそうでない人の差は歴然としています。

このノートは要するに単語帳のようなもので、基本的には自分で使いやすいと思うものならどういうものでも構わないわけですが、できるだけ一定のフォームが決まっており、しかも差し替えのできるカード式のものがいい。そこで、2年ほど前に、次ページに例示したような6穴式システム手帳に対応したカードを考案し、現在は生徒さんも私も、もっぱらこれを愛用しています。このカードには「ボキャビルカード」と「語源・関連語チェックカード」の2種類あって、前者には1面に4語の単語とその用例が記入できるようになっています。後者には特定の単語についてその語源や関連語を記入するためのスペースが設けられており、ここには例えばサンプルに示されているような方法で、語源に関するデータや関連語などを自分で記入していきます(図1/図2参照。なお、このサンプルではデータが活字で印刷されていますが、もちろん実際にはすべて手書きで記入します)。で、仮に1日5語ずつボキャビルしていくとすると、そのうちの4語は「ボキャビルカード」に記入し、残りの1語を「語源・関連語チェックカード」に記入するということになります。

*Newsweek 攻略本:ワードパワー作戦』(バベル・プレス /91年11月 pp.96-97) より転載。
 

ご存知のとおり、英語には本来のアングロサクソン系統の単語の他に、ラテン語、ギリシャ語起源の単語が多く、いわゆる「教養語」と呼ばれるものはほとんどこの類の単語です。ボキャビルという観点からすると、こういう単語をいかにマスターするかというのが重要なポイントになってくるわけですが、こうした単語には一定の造語原則があり、これを押さえておけば認識語彙としてのボキャブラリーは飛躍的に増大します。例えば port というラテン語の語幹が "carry, bear, take" という意味であることを知っていれば、そこから import, export, transport, portable, portage, porter, portfolio, report, reportage, rapport, support といくらでも認識可能な語彙の範囲は広がっていきます。これらは、さらにいずれも特定の意味を持つ im-(in-), ex-, re-, trans-, sup-(sub-) などの接頭辞、および -tion, -er, -able などの接尾辞をともなう単語であり、たとえば re- という接頭辞の意味を知っているだけでも枚挙にいとまがないほどの数の単語への手掛かりを得ることができます。一説によれば、こうした基本的な接頭辞と接尾辞、それに主な語幹をおよそ200 ほど習得するだけで、2万5000語以上の英単語への手掛かりを持つことになると言われています。

語源をキーにしたボキャビルの方法についてはここで詳しく述べませんが、例えば『英語プログラム学習:語彙編』(Stephen Williams/研究社)のようなテキストを使って基礎的なことをざっと学習しておくといいと思います。なお、語源を詳しく調べるためには、専門の語源辞典があると便利ですが、基本的なことについては Webster's New World DictionaryAmerican Heritage Dictionary などの大型英英辞書があれば十分です。ただし、それぞれの接頭辞・接尾辞・語根ごとに関連語を一括して調べるためには『語源中心英単語辞典』(南雲堂/田代正雄)のような参考書が必要です。なお、このボキャビルカードは一度記入したらそれで終りということではなく、折りに触れて繰り返し読み返すようにします。

「ボキャビルテープ」を作ろう
ボキャビルカードを作って、毎日少しずつ語彙を増やす努力をしていくとしても、単語はできれば文字情報としてだけでなく、音と連結させて覚えるほうが効果的です。例えばある文章の中に demur という単語が出てきたとして、これを d-e-m-u-r という文字の組み合わせとして覚えるだけでなく、音声データとしてもインプットしておくことで、記憶への定着を一層促進することができるわけです。そこで提案したいのが「ボキャビルテープ」作りと、これを使った「レスポンス訓練」です。これは、具体的には次のような方法で行います。

まず、前述のような方法で毎日5語ずつボキャビルカードに記入していきます。これを1週間ごとにまとめてテープに吹き込みます。各語句群は1から7までのグループごとに切れ目なく続けて録音しますが、各単語と単語の間にはそれぞれの単語とほぼ同じ長さのポーズをあけておきます。この録音は自分の声で行います。ネイティブの発音でなければなどという心配は無用です。ただし、できるだけ正しい発音で(とくにアクセントを正確に)録音するように気をつけてください。なお、各語句群はカードへの収録順に録音しても構いませんが、できるだけ1週間分を動詞、名詞、形容詞/副詞という3つのグループに分けておきます(演習2参照)。このテープを、通勤時間などを利用してヘッドホーンで聞きながら、英語から日本語への即時転換訓練を行います。

例えば、最初のグループに demur / sway / emerge / henpeck / insist という5つの単語が録音されていたとすると、最初の demur という単語を聞いたら間髪を入れずに「厭と言う」と反応し、続いて sway と聞いたら直ちに「なびく」と答えるというように、次々に反応していくわけです。訳語は原則としてその語句が使われている文脈での意味を当てはめていきます。途中で言葉に詰まってもテープは途中で止めずに、次の単語にすぐに対応していくようにして、完全に即時対応できるまで何回でもこれを繰り返します。

この「レスポンス訓練」は通訳者の訓練過程で必ず取り入れているもので、ボキャビルと同時に、英語から日本語、日本語から英語への反応スピードを高めることを目的としています。したがって通訳者訓練では、同じ要領で日→英のレスポンス訓練を行いますが、英語のボキャビルを主な目的とする場合にはこれは必要ないと思います。このレスポンス訓練のボキャビル効果は絶大で、筆者の生徒の例ではこのようにして訓練したボキャブラリーの事後定着率(4カ月後のテスト結果)はのきなみ 80% を超えています。もっとも、この方法も始めにリーディングがあり、その中に出てきた単語を対象にしているからこそ効果があるのであって、てっとり早く単語だけを集めて覚えようとしてもあまり意味がありません。あくまでも毎日のリーディングとボキャビルカードの作成が基本です。なお、前述のボキャビルカードと同じように、このボキャビルテープも一度練習すればそれで終りということではなく、適当な間隔をおいて何回でも繰り返して練習するようにします。

今回の演習は、以上述べたことを実際に試していただくために、「ボキャビルカード」と「ボキャビルテープ」の作成を課題にしました。次回はヒアリングの学習法について解説します。
 


演習 「ボキャビルカード」と「ボキャビルテープ」の作成

演習1  次の英文に出てくる未知語のうち5語を選び、そのうちの4語を次ページの「ボキャビルカード」に、1語を「語源チェックカード」に記入しなさい。*

The prince, sources who follow the royal family say, was depressed by her rejection. Friends say she was unnerved by his interest. She told them, essentially, that he wasn't her type. Some sources say her father shared her doubts, and at one point told a friend that he knew how difficult it would be if the prince kept up the pressure. "I hope he would give her up and his attention would switch to someone else," he said. "It's very hard to say 'No' clearly." Masako and the prince had not seen each other for five years when, last summer, another meeting was quietly arranged at the home of a former diplomat in Tokyo. They chatted, but the prince apparently didn't press the issue. Then, just a few weeks later, in a walk beside the imperial pond outside Tokyo, he did. And again, remarkably, Owada demurred. The minders frantically sought to figure out why she could not be swayed. Apparently, they learned that she had deep reservations about how she -- like the current empress, a commoner -- would be treated if she said yes. Akihito's wife, Empress Michiko, is widely believed to have had a nervous breakdown in the early '60s, broken by the hazing she received from the Imperial Household Agency and other members of Japan's aristocracy. She endured and has now emerged as a strong figure within the court -- too strong for some, in fact. "The emperor is henpecked," insists one right-wing intellectual with close ties to the royal family. At some point -- it is not clear precisely when or under what circumstances -- the current Empress of Japan spoke to Owada, reassuring her that times had changed, that she would not confront the same antagonism. According to Japanese press accounts, Masako's resistance began to crumble. The pressure was on. 

("The Reluctant Princess" Newsweek. May 24, 1993. p. 30)

* ここでは図1/図2を参考に、各自、自分なりのカードを作成してください。(なお、本稿で紹介した「ボキャビルカード」「語源チェックカード」はバベルプレスより販売されていましたが、現在は販売中止になっていますのでご注意ください)。
 

演習2 以下の語句群を素材にして「ボキャビルテープ」を作成し、英→日のレスポンス練習をしなさい。

1.  demur / sway / emerge / henpeck / insist 

2.  endure / reassure / confront / crumble / chat / figure out 

3.  apparently / remarkably / frantically / current / precisely 

4.  diplomat / minder / deep reservation / commoner / nervous breakdown 

5.  hazing / aristocracy / antagonism / press account / resistance
 

【参考訳】
1. 厭だと言う/傾く、なびく/(頭角を)表す/(夫を)尻に敷く/主張する 
2. 耐える/確約する/対決する/崩れる/おしゃべりをする/理解する 
3. どうやら(〜のようだ)/注目すべきことに/大慌てで、半狂乱で/現在の/正確に
4. 外交官/世話係り/深い不安/平民/神経衰弱
5. いじめ、しごき/皇族、貴族/苦悶/新聞報道/抵抗
 


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