[講義1:資料]

[調査対象]  民間の通訳学校(初級クラス)の生徒72名
[調査時期]  1991年4月〜5月
[目的] Newsweek を読んだ場合の平均未知語率を出し、そこから各自の現在の認識語彙数(見出し語換算)を推定する。
[方法]  4種類のそれぞれタイプの異なる記事を読み、その中に出てくる未知語の数を数え、これをそれぞれのサンプルの総語数で割って平均未知語率を出し、表1にしたがって推定認識語彙数を算出。[1]
[結果] (図1参照)

1.  平均未知語率: 2.9%
2.  最頻値(範囲):≦5.0 % (5.0% 〜 9.90%)
3.  上記1の推定未知語率:6,000 (±2,000) 語
4.  上記2の推定未知語率:5,000 (±1,000) 語 



[推定認識語彙の算定方法]
調査の結果、一番多かったのは未知語率 ≦5.0% (2.6% 〜 5.0%) のグループで、72名の生徒のうち38名がこのグループに属している。未知語率 2.6% から 5.0% というと、およそ20語から40語あたりに1語の未知語が出てくるという計算になる。未知語率が 0.5% 以下の生徒は今回は1名だけで、この生徒は米国の大学を卒業した帰国子女で、ほぼバイリンガルである。次に成績のよかったグループ(未知語率≦1.0%)の5人も海外留学経験者であった。

千葉大学の竹蓋教授の研究によると、高校卒業までに学習する基本語彙を含めた 5000語程度のボキャブラリーがあれば、TIME  を読んだ場合の未知語率はおよそ 10% ということになっている。TIME  も Newsweek  も使用語彙の難度に大きな違いはないことから、この数字はそのまま Newsweek にも当てはめることができる。今回の調査では未知語率 ≦10.0% (5.1% 〜 10.0%)のグループに属する生徒は4人いたわけだが、彼らの実際の未知語率はそれぞれ 5.5%, 5.6%, 6.9%, 7.2% となっており、平均未知語率が 10% という生徒はいなかった。しかし、彼らが未知語として指摘した単語の中に、竹蓋氏の挙げる基礎 5000語に含まれるものが相当数あること、および竹蓋氏の挙げている5000語の中には同一単語の変化形も別の単語として扱われていることなどを考慮すると、この4人の実際の語彙数はおよそ 4000語程度と見てよいと考えられる。少し幅をとって 4000(±1000) 語としておけば、当たらずといえども遠からずということになるだろう。

一方、平均未知語率が ≦2.5%(2.1% - 2.5%)であった生徒11名は、いずれも竹蓋氏の挙げる基礎 5000語をほぼ完全にクリアしており、その認識語彙数は見出し語換算で 6000(±2000)語、ないしそれ以上のレベルに達しているものと推定される。平均未知語率が 0.5% 以下と最も低かった生徒の総合的な英語力はほぼネイティブに近い水準にあり、その認識語彙数が1万語を下回ることはなく、低く見積もった場合でもおよそ1万2000語は十分にクリアしているものと考えられる。以上のことから、Newsweek を読んだ場合の未知語率と推定認識語彙レベルの相関をごく大ざっぱに算出したものが次の表1である [2]。これはいちおうの目安と考えていただければいいわけだが、この表はABCの3つのランクに分けることができる。各ランクの中間値を基準値として、それぞれのリーディング力評価は表1の下に示すとおりである。 
 

未知語率
未知語出現頻度
推定認識語彙レベル
ワードファミリー換算 [3]
 評価
≧ 0.1 %
1000語に1語
20,000 語以上
6,000 *
 A 
 ≦ 0.2 % 
  500 語に1語 
 15,000 (±3,000)語
--
 A 
 ≦ 0.5 %
  200 語に1語
 12,000 (±2,000) 語
--
  B+
 ≦ 1.0 %
 100 語に1語
 10,000 (±2,000) 語
4,000
  B+
 ≦ 2.0 % 
   50 語に1語 
   8,000 (±2,000) 語
--
B
 ≦ 2.5 % 
   40 語に1語 
   6,000 (±2,000) 語
--
B
 ≦ 5.0 % 
  20 語に1語
   5,000 (±1,000) 語
3,000
  B-
 ≦10.0% 
  10 語に1語
   4,000 (±1,000) 語
--
 C
 >10.0% 
 10 語に1語以上
   3,000 (±1,000) 語
2,000
  C-

表1:Newsweek 誌を読んだ場合の未知語率と推定認識語彙

[リーディング力評価]
Aランク】いくつかの未知語に出合うことがあるが、そのほとんどは前後関係で意味を推測することができ、全体に文章を楽しみながら読むことができる。内容の理解度にはネイティブスピーカーにくらべてほとんど遜色ない。ただし、読みのスピードではやや劣り、安定して読めるスピードはおよそ 160±20 wpm の範囲である。
Bランク】いくつかのキーワードが理解できないことがあるが、細部にこだわらなければかなり読むことができ、要旨の把握もほぼ的確である。ただし、記事の内容によっては読解にかなりの困難を感じることがあり、どの記事も安定して読みこなせるレベルにはいたっていない。リーディングスピードはおよそ 120±20 wpm の範囲である。
Cランク】読めないことはないが、かなり苦労する。読み終えた後、要旨が把握できていないことがある。リーディングスピードはかなり遅く、平均して 80 wpm ないしそれ以下である。 
 

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[1] 計算式は「(未知語数÷総語数)×100」。例:総語数 800語のテクストで総未知語数19語の場合 (19÷800)×100=2.375 で、小数点2位以下を四捨五入すると未知語率はおよそ 2.4% となる。なお、連語はまとめて1語と数えた。また、文脈からその意味が推定できるものは(初めて見る単語であっても)既知語とした。
[2] 東京女子大短大部の小林祐子教授によれば、TIME 誌を対象にした場合の未知語出現頻度とボキャブラリーレベルの相関は、未知語率 2.5% の場合で 10,000語、9.0%で 5,000語、25.0%で 2,000語となっている。数字の根拠は明らかでないが、語彙レベルの設定は The Ladder Dictionary の使用頻度区分に基づいているものと思われる(別冊 English Journal 「英語の速読術」1985年2月号 pp. 30-35)。
[3] ワードファミリー換算の数値は Grabe, W (2009) による。なお、Grabe の推定では見出し語40,000語に対してワードファミリー換算9,000語となっていることから、見出し語 20,000語レベルの対ワードファミリー換算をおよそ 6,000語と推定した。

[出典] 染谷泰正 (1993) 「通訳者訓練メソッドによる目標別英語力増強講座:第3講:英文の読み方 (3): 自分の語彙数をチェックしてみよう」バベルプレス『翻訳の世界』(1993-94年連載)より、一部変更して引用。

[Recommended readings]
投野由紀夫編著(1997)『英語語彙習得論』河源社
竹蓋幸生 (1982) 『日本人英語の科学』研究社出版
Carter, R. and McCarthy, M. (1988). Vocabulary and Language Teaching. Longman.
Nation P. and Warnin R. (1997). Vocabulary size, text coverage and word lists. In Schmitt, N. and M. McCarthy (Eds.): Vocabulary: Description, Acquisition and Pedagogy. Cambridge, Cambridge Univ. Press. 6-19. 
[Online] http://www1.harenet.ne.jp/~waring/papers/cup.html
Warning R. (1997). A Comparison of the Receptive and Productive Vocabulary Sizes of some Second Language Learners. Immaculata (Occassional papers of Notre Dame Seishin University) Mar. 1997.
[Online] http://www1.harenet.ne.jp/~waring/papers/vocsize.html
Click here to go to the Second Language Vocabulary Resources page of Rob Waring, Notre Dame Seishin University, for more useful  information about SLV Research.
Grabe, W. (2009). Reading in a second language: Moving from theory to practice. NY: Cambridge Uni. Press.


「英語通訳訓練法入門」 (c) Someya Yasumasa 1994-2018